2024年11月14日
知り合いに、町工場を経営するおっちゃんがいます。朝から晩まで働き、とても忙しそうです。世間に名が知れている訳でもなく、お金持ちでもありませんが、社員たちに仕事を教えながら一生懸命働くので、会社も少しずつ成長し、おっちゃんも社員たちも楽しそうに仕事をしています。もう一人、株式投資に才能がある人がいます。夕方には仕事を切り上げ、ゴルフを楽しみながら、一人で年間数億円を稼ぎます。よく海外旅行にも出かけて人生を楽しんでいるようです。
おそらく、一般的に「才能がある」「人生を謳歌している」と称えられるのは後者の方でしょう。仕事はそこそこに切り上げ、自分の趣味や余暇にお金を使うことが出来ます。おっちゃんのように、お客様に気を使うことも、社員のために時間を使う必要もありません。稼いだお金もすべて自分のために使うことが出来ます。
それはそうだろうなあ、と思いつつ、それでも私がどちらの人生を選択するかと言えば、やはり前者の人生を選択すると思います。前者の人生の方が圧倒的に面白そうに思えるからです。
私は裕福な育ちでは無いので、若い頃はお金を稼ぐことに必死でした。とにかく自分の生活が成り立つように、次に家族の生活が成り立つように、そして家を買い、子供たちを大学に行かせるために、そういうことを考えながら一生懸命に働いていました。お陰様で、小さくはありますが自分の家を持ち、子供たちも大学を卒業し、ある程度生活にゆとりが出るようになりました。
しかし、その時に気づいたのは、私より若いスタッフたちがまだ自分の家を買うことが出来ず、「ロサンゼルスは物価が高いので家を買うのも大変ですね。」と言っていることでした。確かにロサンゼルスは物価、とりわけ不動産の価格が高く、家を買うのは大変なことです。だから年収目標を立て、毎年昇給させてあげなければと思いました。数年が経ち、マネージャー以上の社員は全員、家を買うことが出来るようになりました。
すると今度は、社員の小さな子供たちが気になるようになりました。住宅もそうですが、アメリカの大学は学費がとても高く、公立校であっても、居住費を含めれば年間$40,000~$50,000の費用が掛かります。「TOPCに就職したばかりに、子供を大学にも行かせてあげられない。」そのようなことが起きてはいけないと思いました。
人が会社を経営する理由は色々あると思います。正直なところ、私も起業当初は、自分の収入を何とかすることにほとんどの意識が行っていたように思います。しかし、会社が成長し、優秀な社員が集まってくるようになると、段々と自分ひとりだけのことを考えていてはいけないことに気づきました。私一人だけでなく、社員たちも豊かに、幸せで無ければ、会社が存在する意義が無いように思うようになりました。しかし、良い給料を払いたいと思えば、会社の売上と利益が上がらなくてはなりません。そのためにやるべきことは、お客様に出来る限り最高のサービスを提供することです。最高のサービスを提供しようと思えば、社員一人一人が成長しなければなりません。社員が成長し、より良いサービスを提供できるようになり、お客様に喜んで頂き、その上で良い利益を出せるようになる、その循環を作るために、経営者は働くものなのです。
例え小さな町工場であったとしても、社長がビジョンを持ち、明るい未来を語りながら社員たちと懸命に働いていれば、きっとその会社は伸びていくものだと思います。私が町工場のおっちゃんの生き方を選ぶのは、例え小さくてもそこには夢があり、将来社員たちがより良い生活を送ることが出来るようになるのであれば、それ以上に楽しいことは無いだろうと思うからです。
自分の才能で稼いだお金を自分のために使い、自分の時間を自分のために使うことが豊かであるのか、自分の才能を社員とお客様の成長のために使うことが豊かであるのか、どちらが豊かだと感じるかで、その人の生き方が決まるものだと思います。
私が尊敬する偉人と言われる人たちは、歴史上幾多の動乱の中を、時には自らの命すら顧みることなく行動を起こしています。町工場のおっちゃんは、そういう人たちに比べると小さな存在で、彼が持つ夢も本当に小さなものなのでしょうが、彼の才能の最大限まで、社員たちのために努力を続けるのであろうと思います。そしてもしそのおっちゃんに少しでも才能があるのであれば、ひょっとしたらいつか、この町工場は皆が想像する以上に成長する日が来るかも知れません。お客様を欺くようなことがあれば、決して成長が持続することはありません。正しく仕事をし、正直な報酬をもらい、その上で利益を出し、社員の報酬につなげていく。自分だけのためでなく、周りの人のためを思って清く豊かな会社を作る、そういう志をおっちゃんが持ち続ける限り、彼はきっと成功するものだと、私は思います。
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